Japonism Victoria vol.9 no.1

 

算命学の泉 [最終回]

尾崎 光越

自己を見失わない

今回は私のシリーズ最終回として,今まで述べてきたことをまとめながら,人生に悩んでいらっしゃる方に「自己を見失わない」生き方をお勧めして,連載を終わりたいと思います。

私は時々,占い師の仕事とは何だろうと考えることがあります。人様の大切な人生に関わらせていただき,その方の人生の傍(かたわ)らを少しだけ共に歩む事ができるとは,なんと素晴らしい仕事なのかと感謝することもあります。しかし,そういう時にも必ず自分を戒めてもいます。それは占い師として常に心得ておくべきことなのですが,私にアドバイスを求めに来てくださる皆さまがどんなに悩んでいても,たとえ「私の人生を決めて下さい」と言われたとしても,私はその方ではないということなのです。

私に決めてもらった人生で,その方が「よかった」と思うことがあるとすれば,その方が希望していた結果に行き当たることができたときでしょう。しかし,占いは処世術ではあるのですが,悩んでいる時に夢想する結果がその方に本当に良い人生をもたらすとは限らないのです。

私は算命学の本質とは,占いの技術にとらわれないで人生の奥にあるものを観ていくことだと考えています。それでこそ,占いの技術は自然が一人ひとりに与えた広くて深い心を探し出し,真理を伝達するための道具になり得るのです。占いによるアドバイスは,それぞれの方の宿命に組み込まれている本質の発見でしかないのです。それは,「人間即自然」であり「宿命即自然」だからです。

人間はどこまで行っても自然から離れることはできません。ここに生存するなら自然を知り自然と融合し,そして,ある時は自然に従うことが必要でしょう。西洋の人々は自然を従わせ,追い越し,自分たちのために活用して発展してきました。私たちも西洋的な考え方によって生み出されてきたものに沢山の恩恵を受けているので,これを全面否定するつもりはありませんが,長い人間の歴史を観る時,その奥底にはそれらを呑み込むほどの自然の流れが脈々として息づいているのを感じます。その傾向は社会であっても,個人であっても変わることはありません。

すなわち,私がお伝えしたいのは,お一人お一人の方の命に組み込まれている宿命という自然そのものの本質に気づいていただきたいということです。人は生まれ落ちたその時から宿命を背負って生き始めます。元々持って生まれて来るのですから,算命学の占いによってだけでしか見いだせないことではありません。4回目の連載「宿命を知る」で述べましたように,色々なことにチャレンジして経験してみることでも,自分の宿命にたどりつくことができるでしょう。また,自己内省を繰り返すことで感じ取ることもできるでしょう。禅を組むのもそのひとつかもしれません。ですから,何も算命学によってしか人生を探すことができないのではなく,その方に合う道でご自分の宿命と出会っていただければよいのです。

宿命の流れは大河です。ゆったりと大きく流れています。そこには失敗や,やり直しを許す心もちゃんと用意されています。自分の本質を意識しながら人生を見つめるとき,「我」を離れて宿命に沿った生き方を感じることができます。「自己を見失わない」ということは,見栄や外分や欲望などに振り回されるのではなく,それらを少し外側から観て,必要なものと必要でないものを見直すことのできる心の強さを持つことです。

万物流転といわれますが,この世は人も社会も国も皆それぞれの宿命に沿って流れています。人は個人として社会や国の宿命の中で生きなければなりません。世の中が不景気になれば人々は安定を求めて全体主義に傾き,景気が良くなれば個人主義に走ります。しかし,その様な社会の中でも木の葉のように流されてしまうことのないように,不景気の時は不景気から逃げずにそれを利用して生かし,景気の良い時は良い時なりに活用することが大切なのです。夏には夏の暮らし方,冬には冬の暮らし方があるように,様々な環境にあっても自分の本質を生かす道のたどり方が大事なのだと思います。

これで,私の連載を終わりたいと思います。「算命学の泉」を読まれたことで,皆様がご自分の宿命や本質について関心を持たれ,ご自分の考え方や性格や行動の仕方やくせなどを見直す機会にしていただければ本望です。

自分を知ることは先ず,自分をより良い方向へ導くことへの第一歩です。自分の嫌な面や弱い面など触れたくない面もあるでしょう。しかし,勇気を持って見つめてください。あなたは決して良くない面ばかりではなく素敵な良い面もお持ちなのですから。

あなたは必ず何かの役割を持って生まれてきています。あなたの出来ることは何ですか。あなたを必要としている人はいませんか。この様なことを真面目にご自分に問いかけているうちに,あなたの宿命はあなたのすぐ隣にやってきます。あなたとあなたの宿命が一つに重なった時,あなたはご自分の生き方に自信と信念を得ることができるでしょう。そして,より良き運命の開拓者となられるのです。

私の連載をお読みくださいました皆様方のお幸せを心よりお祈りいたしております。ありがとうございました。

算命学の泉 最終回
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